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映画

是枝裕和監督作、歩いても 歩いてもの感想レビュー

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長男の命日に実家に集まる家族の数日間を切り取った風土記というか群衆劇のような作品。

「ん?そんな作品のどこが面白いの?」
そんな疑問が聞こえてきそうだが、そこがこの作品の凄い所なんです。
何気ない日常を徹底的に調べ上げ、何気ない日常という何よりも難しい演出に全演者とスタッフが渾身をこめている。

 

一見このような映画は非常に観るものを選んだりもするが、そこは是枝裕和と言う感じで、非常にマニアックな内容の映画をちゃんと、その道は外さずに一般映画っぽくとも仕上げているので、世間一般、ドラマしか見ないような視聴者も取り入れるテクニックがなされているのは流石。

さきに書いたように、この映画に込められたているのは至ってシンプルな日常。
見た人全員がどこかしらの部分に必ず自分を重ねれる場面がるはずと言うくらいに日常である。

しかし、やがて感じ出します。
その、当たり前の日常は今日まで一歩一歩積み上げられてきた結果に至る日常、つまりは普通であってそこにはすべての意味が込められているのです。

 

そのようなシーンが常にこの映画にはばら撒かれており、それを探すだけでも楽しいのです。
例えばほんの一例。

頑固おやじの父親が風呂に入ります。
父親がお風呂から出て程なくして息子が風呂に入ります。

実はこのシーンまでに息子は家業の病院を繋がった。しかし息子からすればそれは事故で亡くなった長男に託していたことで、俺は関係ないといったいざこざが要所要所にちりばめられています。
で、そんな中、息子が着替え中に父親が自分の使ったお風呂のタオルを絞りに来て、息子と鉢合わせしここでもその内容の事が交わされます。

 

父親はそのまま縁側へ行き、その絞ったタオルを棒に綺麗に伸ばしてかけます。
かけたあと、そのタオルを少し眺る間があってから、くしゃくしゃっと握り潰して寝床に付きます。

次の日の朝のシーンで何気に映された家族の何気ない朝のワンシーンがあります。そこに何気に映りこむ干したタオル。
父親の横に母親のタオルも干してあり、そのタオルは両方寄り添うように干され、更には2つとも綺麗にぴっちりと伸ばして干されていました。

 

これであのシーンの意味が判明します。

このシーンが無ければ、ただただ跡継ぎ問題にいつまでもはといわない息子にいらだってタオルをくしゃくしゃにした父親。といういかにもよくある演出ですが、この映画は違います。

この父親、普段はタオルはくしゃくしゃに干しているのです。
そして必ずこの家は父親、母親の順でお風呂に入ります。
なので、そのくしゃくしゃのタオルは母親がずっと綺麗にしてきたのです。これはこの家の日常なのです。

しかし、父親はその日無意識のまま、タオルを伸ばす事をしてしまっていました。
それは日常の中にある、異常を表現しており、それが良い異常なのか、悪い異常なのかはを判断するのは人それぞれでいいと思いますが、個人的には綺麗にするということは「良い」方なのかなと感じました。

 

そしてそれはラストシーンにわかります。家族を見送った父親がすかさず「次は年末だな」と言います。
つまり父親は頑固な姿をしながらも家族の帰省を楽しみにしていたのです。
これだけを見ても、以下にこの映画が日常を描く為に全エネルギーを使ったがわかるとおもいます。

114分と少し長めの作品ですがあっという間に終わると言うか、非常に幸せな気持ちを過ごせる時間でした。
こんなテレビドラマがあったら必ず全て見ます。別に1週間に1つ何かがあらなくても言いと思います。しかし何も無くたってかならず何かがあるのです。
そういった面からも現在のテレビ業界へのアンチテーゼとも言えるのかな?

 

最後に一つ苦言ではないですが、感じたこと。

いやはやこの映画、凄い縁者がそろっています。
樹木希林 原田芳雄 夏川結衣 に、今や確実に今後の日本を背負う役者となった阿部寛。
本当に私の好きな俳優さん、そして今の日本を支える癖あり俳優さんが全て出ています。(高橋和也 も・・・笑、意外と良い俳優さんなんだな・・)

 

さて、ここでもう一人の方を書きます。

YOU・・・・・

ん~~~~ orz

誰しもがここに、この映画唯一の汚点を感じるでしょう。この素晴らしい映画見るのをこの一点で止めてしまう人もいるでしょう。
この映画をぶち壊すことへの怒りを覚える人もいるでしょう。

「わかります!!!!!!!!!!!!」

しかし、僕個人の感想としては、そこまで卑下しなくていいかな、とも思っています。
この映画にYOUがいる事によって、いかに他のベテラン演者が「普通」を普通に見えるように演じているかが分かります。

 

YOUはお芝居が下手ではなく、お芝居が出来ないのです。だからただ、素人は素人らしく出ているだけです。
ここが味噌です。
一般人を演じている演者と、一般人がカメラの中にいます。そこがすごく面白いのです。そして同時にその演じている人たちの凄みが伝わってきます。しかしそれは演者としてのです。その役柄としてのです。何か普通を演じていながら、後光を発していると言う意味ではありません。

その意味からも、何故是枝監督はあえてYOUを使ったがわかると思います。そしてもう一方では日常に異常、しかしそれもまた日常である、というこの映画のテーマを出演者の中にも表現したと言う感じでしょうか。そしてそれをYOUもきっとわかっていたはずです。
あの方は才能は一切ないが、頭は切れる人です。自分が何故この映画に出されたかわかって出たはずです。だからこそ私はYOUが出ていることに怒りなどは感じなかったのだと思います。

 

と、長々書いてきましたが。
うん。
この映画、まだ見ていない人は是非見て欲しいですね。

寝れない夜に、ゆっくりと一人で見ると。
とても幸せな気分のままで、くっすと笑ったり、ときにどきっとしたり、そしてほろっと涙が流れます。

歩いても歩いても、最高の映画でした!



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